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良かったら・・・






        キャッチボールをしていたい、あなたと

Op.185 CONTENTS━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

1.指揮する男
2.ショスタコーヴィチ 交響曲第5番

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1.指揮する男

ドヴォルザーク作曲 「交響曲第9番第1楽章」
ロッシーニ作曲 歌劇「セビリアの理髪師」
ムソルグスキー作曲「展覧会の絵」よりプロムナード
セリーヌ・ディオン 「My Heart Will Go On」
マーラー作曲「交響曲第5番嬰ハ短調第3楽章」
モーツァルト作曲「交響曲第41番第1楽章『ジュピター』」
エルガー作曲「行進曲『威風堂々』」
スメタナ作曲「連作交響詩「わが祖国」より『モルダウ』
マーラー作曲「交響曲第5番嬰ハ短調・第5章」
ショスタコービッチ作曲「交響曲第5番ニ短調」・作品47 第4楽章
ワーグナー作曲 歌劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」より第1幕の前
奏曲
シューベルト作曲/ゲーテ作詞/大木惇夫・伊藤武雄 共訳 歌曲「魔王」
シューベルト作曲「アヴェ・マリア」

本誌今後取り上げる曲のリストではありません(笑)。あるTVドラマで使用さ
れた音楽のリストです。

主人公は建築デザイナー。40歳独身の男性。ちょっとよさげなマンションの一
室で、オーディオセットの前にどっかんと座り、夜な夜な音楽を聴きます。座り
心地のよさそうな茶色の椅子に座り、右のミニテーブルには青色のグラス。中に
はワインではなく牛乳が入っています。彼の癖は音楽を聴きながら指揮をするこ
と。時に猛々しく、時に繊細に、酔いしれるように腕を振り回します。両手を挙
げ、なぜか体をクネクネと揺らすのが可笑しいです。

毎回このシーンがあり、「次はどの曲だろう…」と楽しみにしているんです。
なにせ初回から、いきなりマーラー交響曲第五番第五楽章が聞こえてきたんで
すから、選曲も私好みでして、つい夢中になってしまいました。

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★あるシーン1

一日の仕事の疲れを癒すための曲には最適。ちょっとコミカルなオーボエの音
色、そしてホルン。弦楽器のおおらかな調べ。主人公が酔いしれている頃、隣の
住人の声が少し聞こえてきました。

「ケンちゃん、だ・め・よ〜」
「やめて〜」
「そんなところ舐めちゃだめ〜」

聞くつもりがなくとも、否応なしに聞こえてくる若い女性の、少し悩ましい声。
はじめは無視するのですが、さすがの主人公も動揺し、ついに怒りへと発展しま
す。
「また、ケンちゃんか!」
苛立ちを隠せない彼は、即座に別のCDを取り出し曲を変更。ボリュームを上げ
流れてきた音楽は?
木管のトリリリリリリ〜、そして、ずんちゃずんちゃずんちゃずんちゃ、、、、
猛々しいティンパニーの後、金管楽器群のユニゾン炸裂です。ショスタコーヴィ
チ交響曲第五番第4楽章冒頭部。仕返しですな。

隣の女性も黙ってはいません。毎晩隣人が鳴らすクラシック音楽の騒音(?)に
悩まされ、積もり積もった恨みが爆発です。ケンちゃんとの戯れをやめ、彼女は
壁を足蹴。

★あるシーン2

「ねえ、桑野さん(桑野とは主人公のこと)って、毎晩クラシックを聴きなが
ら指揮しているってほんと?」
「ええ、「普通するだろ」っていっています。
 普通しませんよね〜、指揮なんか」
「しない、しない」

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「俺(私)はするけど、それが何か?」
と、つぶやいた、そこのあなた。

何を隠そう(別に隠す必要もないが…)私も同志です。私の場合は自宅ででは
なく、主に外においてです。歩きながらiPODから流れる音楽を指揮するので
あります。あるいは自転車にのりながら左手でハンドルを持ち、右手で指揮
(危ないじゃないか!)。夜道暗がりで「叩き」(カツオのではない)や「し
ゃくい」動作をとつぜんする癖もあるため、女性が前を歩いている時は控える
ようにしています。アヤシげな動きをするオヤジに気づくと女性は「タッタッ
タッ」と走り去っていくものですから。あの〜、ストーカーではありませんっ
て。

*註
「叩き」=打点を示すために何かを叩く動作
「しゃくい」=緩やかな曲線運動の中で加速度の変化として示す
指揮法「斉藤メソッド」
出典 Wikipediaの「指揮」項より

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私は映画、ドラマ、CM等で俳優さんたちが指揮をするシーンが出てくると、
つい指揮ぶりにツッコミを入れる癖があるんですね。困った習性です。昔ちょ
っとだけ指揮をしていたということもあるのですが、自分の指揮の下手さを棚
にあげて俳優さんたちの下手さを笑うのです(←いやな性格だ)。

ツッコミのターゲットはやたら大げさに手を振り回す動作に対してです。だい
たい両手の動作が揃わず、肘が一緒に動き、手首がくねくねと曲がるケースが
多いです。ああすると、フワフワと落ち着きのない指揮に見えるんですね。俳
優さんに限ったことではなくアマチュアのコンクールなどでもこういう指揮者
をよく見かけます。演奏を聴くのに集中すべきなのについ指揮者の動きを見入
ってしまい、「やってられんな、あの指揮は」「団員たち、大変だな合わせる
の」「なんとかしてちょーだい」などとぼやくもんだから、横にいる妻はいつ
も迷惑そうな顔をして、「少し黙ったら?」と耳打ちします。

竹中直人さんが今度ドラマ版「のだめカンタービレ」でシュトマーゼン役(原
作前半の重要な役割を果たすちょっとスケベな外国人指揮者。ドラマでは日本
人に想定。むむむ、ちょっと残念)を演ずるらしいのですが、ちょっと心配し
ています。なにせ映画「スィングガールズ」でかなり奇妙な指揮ぶりを見せて
いただきましたので。あの時は成り行きで指揮することになった学校の先生役
でしたから良いものの、今度は世界的指揮者ですから、演技指導よろしくお願
いします。でも竹中さんの魅力はあの怪演ですから指揮は二の次でいいかもし
れませんが。おっと、またもや得意の脱線…。

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ドラマは「結婚できない男」。火曜22:00よりフジテレビ系で放送されていま
す。夏時期のドラマは低視聴率傾向にあるらしいのですが、これは好調でして、
ちまたでも話題になっています。金も地位もありルックスもいいのになぜか結
婚できない男を阿部寛氏が演じています。天の邪鬼、少しひねくれもので頑固
な桑野(阿部寛)、そして3人のヒロイン(夏川結衣、国仲涼子、高島礼子)
をはじめ、母親(草笛光子)、妹とその旦那(主人公の学生時代の親友)など
との交流が微笑ましいコメディです。結婚相手最有力候補の夏川結衣演ずる女
医早坂夏美先生に発するデリカシーのない言葉に対し、皮肉混じりの上品な夏
川返答。これがこのドラマの見どころです。うんざりしそうな数々のウンチク、
マニアックな行動も毎回笑えます。国仲が飼うバグ犬のKENちゃんが可愛くて、
このドラマファンの多くを魅了しています。それに、恋愛ドラマなのにラブシー
ン皆無なのも新鮮。いよいよ明日19日で最終回。さて彼は結婚できるのか?
そして最終回で彼はどんな曲を指揮するのか?それにしても、夏川さん「青い
鳥」の薄幸の美人から180度違うコミカルな役ですが、ますます魅力的になり
ましたね。

(隣人国仲涼子演ずるみちるが戯れていたケンちゃんとはバグ犬でした。ドキド
キしました?)

ドラマ「結婚できない男」公式サイト
http://www.ktv.co.jp/shinsuke/
※番組中に流れるクラシック以外の音楽もなかなか良いです。

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2.ショスタコーヴィチ 交響曲第5番 op.47 ニ短調

ドラマで使われていた曲ということで久々にCDを出してきました。あまり聴く
気のしなかった作品でもあります。理由は、本誌の読者の皆さんなら「おい、
おい、またか」とあきれるでしょうが、タイトルのせいです。いつもタイトル
のせいにして、真剣に聴くのを放棄するのが私の悪い癖ですな。

なにせ「革命」ですから。それと、曲ができた背景を知ってしまうと色眼鏡で
見てしまいます。op.129で「第9番」を取り上げた際にその経緯は既に書いて
いますが、再度簡単に触れますと、この5番は、政府に気に入られるように書
いた、つまりショスタコーヴィチの本来の意図と逆に書かれた作品なのです。

歌劇「ムツェンスク郡のマクベス夫人」のあまりにも挑戦的な作風で当局から
目をつけられたショスタコーヴィチ。ヨーロッパ的形式主義に感化された堕落
した音楽を書く作曲家というレッテルを貼られてしまうんですね。空気を読ん
だ彼は、既に完成しリハーサルを行っていた「交響曲第4番」を放り投げ沈黙
してしまいます。革命記念日にふさわしい曲をという命で書いた作品でしたが、
4番を発表すれば非常にまずい立場になる、場合によっては罪をでっちあげら
れて投獄される恐れもある。「何を馬鹿な」と現代なら思うけどあの時代は芸
術弾圧が普通に行われていました。実はショスタコーヴィチはこの種の弾圧と
常に闘いながらその後も交響曲を書いていました。

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ですから、本来彼が書きたかった音楽ではなく、いわば聴衆ではなく発注者、
いや発注者の後にいる目に見えない人物たちを満足させる音楽として生まれた
のが5番でした。こういうウンチクを知ると、私などは一気に聴く気が萎える
のです。幸か不幸か曲は大好評で政府もご満悦でした。ほっとした彼は心の中
では舌を出していたでしょうが。ショスタコーヴィチの交響曲の中で現代最も
頻繁に演奏されるのがこの曲であるということも皮肉な話です。

しかし、圧力をかけている人々を満足させるために、ポリシーを変え、従順に
彼がこの交響曲を書いたわけではないことは彼自身が語っているといわれてい
るのです。信憑性はともかく、ショスタコーヴィチという作曲家ならばあり得
る、と私は思うのです。つまり、この交響曲は国=指導者万歳、革命バンザイ、
人々が皆勝利を喜んでいる、と見せかけているけれど、実際はそうではなく、
革命によってもたらされた弾圧下で「無理矢理」喜んでいるようにふるまわな
ければならない人々、少なくともショスタコーヴィチ自身を重ねている音楽で
あること。そう考えると、楽章全体の印象が変わってくるでしょう。彼はちゃ
んと書きたい音楽を書いていたというわけですね。

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そして、こういう能書きを抜きにして、改めて聴いてみると、なかなかスリリ
ングで面白い交響曲であることがわかります。悲劇的なメロディで絶望の淵に
落とされそうな第一楽章が、荒涼とした雰囲気の中、心の葛藤にも似た音の複
雑な絡みで構成されていること。最後チェレスタの半音階メロディが妙に不気
味です。第二楽章の笑い飛ばすように爽快な金管楽器。静かで哀しい第三楽章。
そしてダイナミックな第四楽章。戦いを思わせる猛々しく陰鬱な音楽が、最後
は勝利を象徴するように、長調へ転じるところも、どことなくかの5番に通じ
るものがあるのはご愛敬でしょうか。今私が言えることは、激しくこの作品に
魅せられていること。正直、狂っています(笑)。

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【第一楽章】 モデラート〜アレグロ・ノン・トロッポ
六度に飛躍する付点音符によるメロディ。弦の低音楽器と高音楽器の掛け合い
で静かに続きます。木管楽器もさりげなく加わりますが、はじめはほとんど弦
楽合奏といえる淡々とした流れ。ときおり妙なテイストに聞こえるメロディで
すが、なんともいえない美しさを醸し出しています。金管楽器が加わり、高ら
かなファンファーレへ突入かと思えば、再び冒頭のメロディへたちもどり、今
度はゆったりとした和音の伴奏に乗って高音弦楽器の意味深な旋律です。荒涼
とした砂漠、いや、凍り付いた大地をイメージさせる不気味な雰囲気が漂いま
す。ピアノが加わり「ドタドン、ドタドン」という足音を思わせるリズム。低
音弦楽器のピチカートで不気味さ倍増。金管楽器の調べは重戦車。まるで映画
「スター・ウォーズ」の変なロボット風の戦車が見えるみたい。ドラムに扇動
されパーカッション群が炸裂する行進曲の箇所は圧巻で興奮させられます。ク
ライマックスは弦楽器ユニゾンによってよみがえる冒頭のテーマ。なんとなく、
和風に聞こえる音楽、そしてブオーンブオーンと成るトロンボーンの声の背後
からゴジラが現れそう。クライマックスの後音楽は静かになり、木管楽器のア
ンサンブル。これがまた美しい。最後は、チェレスタの半音階のメロディ(こ
れがまた本当にコワイ!)で締めくくり。

【第二楽章】 アレグレット
金管楽器のファンファーレの後現れるのはクラリネット先導で繰り広げられる
少しコミカルなメロディ。田舎サーカスのような可笑しい三拍子の音楽の後、
ダイナミックな金管の行進曲風調べ。ロシアンテイストの独奏ヴァイオリンが
いい味を出しています。ファゴットのユーモラスな動きがたまりません。弦の
ピチカートによるアンサンブルもいいですね。思わず体を揺らしたくなるゴキ
ゲンな楽章です。

【第三楽章】 ラルゴ
金管楽器ぬきの楽章。弦のゆったりとした音の動きと、美しいメロディの絡み
合いから生まれる不協和音がそそられます。ハープの伴奏によるフルートの調
べの悲しさ。高揚していく弦楽器が静まった後に現れるオーボエのこの世のも
のとは思えないほど美しいメロディに聞き惚れてしまいます。その後のクラリ
ネットもフルートも極上のワインのようです。コントラファゴットが導くクラ
リネットの低音がまた不気味。やがて弦楽器が高まりを見せ、パーカッション
と共に頂上へ向かえば、弦が激情の旋律を聴かせてくれます。思わず体に力が
入るところ。気持ちも不思議と昂揚してくるのがわかります。静かに冒頭のメ
ロディを回帰しながら、最後はハープのゆったりとした分散和音に導かれてチ
ェレスタが余韻を残しつつ楽章が終わります。

【第四楽章】 アレグロ・ノン・トロッポ
けたたましいティンパニーに先導され金管楽器群の強烈なメロディが炸裂しま
す。主メロディの巧みな変奏でめまぐるしく音楽が進んでいくかと思えば、弦
の神経質な伴奏をバックにトランペットが格好いいメロディを奏でます。その
後に登場するポップスミュージック風音楽。違和感あふれていて思わずニヤリ
とさせてくれる。ありゃ、革命なのに、こんなバラエティやっちゃっていいの?
っていう風に。しかし、すぐにシリアスな雰囲気にたちもどりますから、ショ
スタコーヴィチはたぶんさりげなく遊びを入れたのでしょうね。少し観念的で
深い音楽の後、木管楽器のミステリアスな調べもいいですね。スネアドラムの
ゆったりとした合図にのり、冒頭のメロディに伴い、裏で旋律のヴァリエーシ
ョンを重ねつつ音楽は、次第にクライマックスへと導かれていきます。最後は、
主メロディが長調に転じて高らかなファンファーレとなり、全楽器総動員大
サービスでのフィナーレです。ティンパニーが特に格好いい楽章です。

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★私の聴いたCD
POCL-3521
ショスタコーヴィチ 交響曲第5番、交響曲第9番
ベルナルト・ハイティンク
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

同録音のCD
http://tinyurl.com/hecfd

5番も素晴らしいけど、9番もまた毛色の違った音楽で楽しいです。笑っちゃ
いますよ。詳細はop.129でどうぞ。
http://www.musiker21.com/yawa_backnumber.html
左の目次からop.129をクリックして表示してください。

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【あとがき】

夏のことです。ぼーっとして音楽のことを考え指揮しながら横断歩道を渡ろう
としたところ、赤信号にもかかわらず車が私のシャツをかすめて通りすぎてい
きました。明らかに信号無視。車は右方向から来た別の車横に衝突。いつもの
ようにせっかちに歩道を渡っていたなら「クラシック音楽夜話」はop.182で止
まったまま永遠に配信がなく自然廃刊になったでしょう(実は夏美先生のこと
をあの時ぼーっと考えていたという噂もある!)。
構成・文:musiker
◆ホームページ
http://www.musiker21.com
◆ご感想・ご意見等は、こちらへどうぞ
musiker21@gmail.com

by...メールマガジン「クラシック音楽夜話より転載させてもらってましターーー☆
by tutino-oto | 2006-09-19 22:04 | ひとりごと | Trackback | Comments(2)
Commented by kansai-turezure at 2006-09-20 10:32 x
こう言うの楽しいです。
今はサラッとだけですが後ほどゆっくり・・・
「結婚できない男」ってこんなドラマだったんですか?
ショスタコービッチって?作曲家ですよね。
小沢征爾さんとよく活動されてたチェロ奏者の名前は何でしたっけ?
Commented by tutino-oto at 2006-09-20 21:00
kannsai-turezureさん。
ショスタコービッチ作曲家ですよね☆でもって、突っ込んだ質問は苦手です(^^; ただただ聞くだけクラッシックファン、しかも駆け出しの初心者なんですよーー。

この記事はmagmag通信からの転載ですよ〜〜♪よかったら配信の手続きを〜〜♪
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